剣道具は、稽古で様々な打突を受けているうちに、少しずつ傷がついたり、はげたりしてきてしまいます。
もちろん防具屋さんに修理に出せば、きれいに修理してもらえますが、自分でやってみることはできるのでしょうか?
今回は、自分で面縁や胴台を補修する方法についてまとめました。
目次
面縁を自分で塗る方法
<材料と道具>
汚れてもいい服装で作業することをおすすめします。
なお、ビニール手袋は、確かに手にカシューが付くのを防ぎますが、内側を塗るなどの繊細な作業がしづらく、ビニール手袋に付いたカシューを周囲に付けてしまうことがあるので、素手で作業をしたほうがよいです。
カシュー
カシューは固くなりやすいので、1つの作業は一気に行います。
手につくと、水で洗っても落ちませんし、その手で面金や布団に触って、周りにカシューを付けてしまうおそれがあります。なるべく、手につかないよう気をつけて作業しましょう。
手に付いてしまったときは、薄め液をティッシュペーパー等に取り拭き取ると、落とすことができます。ただし、手が荒れてしまうかもしれません。
筆
長いものと、柄を折って短くしたものを用意すると便利です。
*作業後は、筆を薄め液で洗っておかないと、筆がカチカチになって、次回以降使えなくなってしまうので、注意しましょう。
うすめ液
カシューが固くなった時に薄めたり、面金に付着したときなどに拭き取ったりするために用います。
<工程>
1. 作業前の状態
面縁がはげて、下の色まで見えてしまっています。
2. はがす
すでにはがれ落ちそうになっているところを、できる限りはがします。
毛の固いたわしや金ブラシ、割り箸やマイナスドライバーなどを用いるとよいでしょう。
うすめ液を用いてはがすこともできますが、うすめ液が内輪の生地に染みてしまうことがあるので、おすすめできません。
3. 赤だけ塗り、完全に乾かす
内側の赤を塗るときは、周り(内輪や布団)に付着しないように気をつけましょう。
特に内側のギリギリの部分は、上の写真のように内輪の部分を指で押さえながら、内輪の布に赤がつかないようにしながら塗ると、仕上がりが美しくなります。
長い筆では難しいので、短い筆か長い筆の柄を折ったものを用いるとよいでしょう。
外側は、なるべく黒の部分にはみ出さないよう気をつけながら塗りましょう。
面金の真ん中部分などにカシューを付けてしまった時は、うすめ液で落とすことができます。面縁ギリギリの面金に付いては、赤が付いていることが多いので気にしなくてよいでしょう。
〜赤を塗った後〜
4. 黒を塗る
赤を塗った部分にはみ出さないよう、気をつけて塗りましょう。薄く塗ると、凹凸ができて見栄えがよくないので、二度三度と重ね塗りをした方が美しく仕上がります。(二度三度塗りは、触っても手につかない程度に乾いてから塗るとよいです。)
〜黒を塗った後〜
5.完全に乾かす
「マッキーで塗ってもいいの?」
「カシューなんて、難しいのでは?簡単にマッキーとかで塗ってはダメなの?」と思われる方もいるかもしれませんが、マッキーでは、カシューで塗ったときのような光沢は出ませんし、黒というより紫色っぽく仕上がってしまいます。
また、マッキーで塗った面を打突した場合、竹刀にマッキーの色が付着して黒くなってしまうおそれがありますので、あまりおすすめはできません。
(おまけ)布団を染め直す
せっかく面縁を塗り直したのですから、布団の色が薄くなったり、塩をふいたりしている時には面布団の染め直しもすると、断然見栄えがよくなります。
<材料と道具>
藍の粉
液状になって販売されているものもありますが、防具屋さんによっては、粉状のものをグラム単位などで販売しているところもあります。
上記の粉の場合、写真の量を500mlの水で薄めて用います。
〜薄めた状態〜
この薄めた液を、はけなどでまんべんなく塗ります。
十分に乾かします。
〜塗った後の状態〜
胴台を自分で補修する方法
胴台には、竹胴、ヤマト胴(樹脂胴)、ファイバー胴の3種類があります。
それぞれによって適した方法が違いますので、注意が必要です。
また、補修できる傷には限界もあります。
あまりにも深くできた傷で、内部まで届いてしまっているようなものは、自分ではどうすることもできませんので、防具屋さんに相談するとよいでしょう。
竹胴の場合
表面に漆が塗られています。
漆は固いですが、磨くことで傷を消すことができます。
通常、漆は厚く塗られているので、よほど磨きすぎない限り漆をすべて削り取ってしまうことはありません。
<磨くことで傷を消す方法>
材料:コンパウンド
車のボディなどの傷を消すために用いる研磨剤です。これは、できてしまった傷を埋めるものではなく、表面を研磨することで、傷周辺をなだらかにして傷を目立たなくするものです。
<工程>
傷のついた竹胴(赤丸部分を磨きます)
傷の部分にコンパウンドを少量のせて、丸く磨きます。
磨いた後の胴(○の部分を磨きました。)
白っぽい傷が目立たなくなりました。
<油で光沢を出し、傷を見立たなくする方法>
材料:剣道具用保護油
胴台・胴胸用に作られたワックスです。
竹刀油としても用いることができます。
多めに塗り込み、30分ほど経ってからきれいな布で磨き上げて仕上げます。
光沢と表面の保湿という2つの効果が得られます。
<工程>
傷ついた竹胴
ガーディアンフルコートKを指で取り、全体に薄く塗ります。
30分ほど置いてから、柔らかい布で拭き取り磨きます。
磨いた後の胴
ぴかぴかと光沢が出て、傷が目立たなくなりました。
ヤマト胴(樹脂胴)の場合
ヤマト胴は、樹脂でできた本体の上に、塗料を塗って仕上げてあります。
この塗料は漆などと違って柔らかいものなので、竹胴のようにコンパウンドで削って傷を目立たなくしようとしても、全体が白っぽく仕上がってしまいます。ですから、コンパウンドの使用はおすすめできません。上記のガーディアンフルコートKのような油で光らせ、傷を目立たなくする方法のほうがよいでしょう。
<油で光沢を出し、傷を見立たなくする方法>
傷ついたヤマト胴
ガーディアンフルコートKをのせて、磨きます。
左半分を磨いた状態
実際に、傷を消したわけではありませんが、光沢により傷が目立たなくなっています。
ここまで深くついてしまった傷は、内部の樹脂まで見えてしまっているので、補修することはできません。
<磨くことで傷を消す方法> ※非推奨
先ほどのヤマト胴の右半分(まだ磨いていない側)
コンパウンドをのせて、磨きます。
磨いた後の胴。
傷は目立たなくなってはいますが、何となく白っぽく見えてしまいます。やはり、ヤマト胴の場合は、油で光沢を出すほうが美しい仕上がりになります。
ファイバー胴の場合
ファイバー胴の場合、竹胴と同様に表面に塗られている塗料が固いものになりますので、コンパウンドで磨いて傷を消すことができます。しかし、竹胴でも同じことが言えるのですが、塗料の厚み以上の傷はコンパウンドでは消すことはできません。
<磨くことで傷を消す方法>
傷ついたファイバー胴
コンパウンドをのせて、磨きます。
磨いた後の胴。(赤丸の部分を磨きました。)
撮影者が写ってしまうほど、ぴかぴかになりました。
<油で光沢を出し、傷を見立たなくする方法>
先ほどの傷ついたファイバー胴
ガーディアンフルコートKを少量取り、磨きます。
〜磨いた後の胴〜
光沢が出て、傷が目立たなくなりました。
まとめ
面縁を塗ったり、胴台の補修をしたりするのは難しいのではないかと思いましたが、実際に自分で行なってみると、それほど難しくなく、むしろ楽しい作業でした!(面縁に関しては、内側を塗るところが確かに難しい要素があります)
胴台は、やはり専用品の力はすごいと感じました。ガーディアンフルコートKを用いるのは、油で光沢を出すだけですし、光沢がなくなっても、いつでもまた同じようにすればすぐに光沢を取り戻すことができますので、手軽に誰でも簡単にできる作業です。
剣道具は、丁寧にメンテナンスしながら大切に長く使っていきましょう。